亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「陛下。陛下、陛下、陛下陛下陛下陛下陛下~?」
…重く口を閉ざした巨大な扉の前で、陽気な上に非常にうるさい声が木霊する。
妙に鼓膜に絡み付く男の声は、目前の扉を無遠慮に叩くばかりか、広々とした廊下を自由気儘に駆けて行った。
…加えて、リズミカルなノック音。
普段は静寂の棲家となっているこの空間にとっては、何とも煩わしい事この上無い騒音の塊。
扉の両端に佇んでいるだけで何も口を利かない警備に務める兵士等だったが………この存在には、さすがに、眉をひそめた。
佇む兵士の一人が、とうとう口を開く。
「………ケインツェル様。………少々お声が大きいかと……それに………陛下はただ今お休みになられておいでで…」
「ハハハハ!!お休みはお休みでも、どうせ狸寝入りでしょうよ!陛下―、陛下―、貴方様のうるさい家臣の一人、ケインツェルに御座います」
兵士の忠告にも高らかに笑い返し、ケインツェルは再度扉に向かって叫び始める。
……ちなみに、本人は大声を出しているつもりなどさらさら無い。地声がうるさいから、仕方無いのだ。
………しかしそれが分かっている筈のこの男、敢えて小声にするつもりなどもないらしい。
嫌な奴である。
変な所で甲高くなったり低くなったりする、何とも聞き取りにくく耳障りな声が響き渡る中……仕切りに呼ばれている老王本人からは、何の応答も無い。
…本当に就寝しているのかもしれないが、ケインツェルは狸寝入りと確信しているらしく、しつこく呼び続ける。
その確信とやらに、どんな根拠があるというのか。