亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
返事が無い代わりに、扉の向こう側から硝子か何かの割れる音が聞こえてきた。
……続いて、扉に投げ付けられる音。
………駄々を捏ねて物を投げる子供の様だ……と、ケインツェルは心中で密かに笑い、それを返事と受け取った。
忍び泣く老王が引き籠もる部屋の前で軽く頭を下げ、ケインツェルは背を向けて歩き始めた。
後ろに結った長い黒髪を指で弄りながら、軽快な足取りで廊下の真ん中を進んで行く。
………困った事に、臆病な陛下は酷く御傷心であらせられる様だ。
…いや、元から……何十年も前から、一生治らぬ深い傷は健在していたのだ。
“テナ”という、最愛の者を亡くした故の傷が。
(………そしてその潜んでいた古傷が……今回の、デイファレトの王政復古の兆しにより……痛みがぶり返してしまった…という事ですかねぇ…)
…神の命に逆らい、デイファレトの王族暗殺を企てる程だ。………その古傷の痛みは凄まじいものなのか。…しかしそれは…彼にしか、分からない。
(………陛下の暴挙も、所詮は単なる…私怨。………陛下の恨みつらみはデイファレトに向けられているが……本当の矛先は言わずもがな…)
………あの氷の城に今もいるであろう……………『化け物』。
……デイファレトの王政を崩壊させた戦…遥か昔の、陛下の黄金時代。
その最後の戦で……彼の『テナ』は、死んだ。
勝ち戦の終幕に、『化け物』によって、殺されたのだ。………それ以来、陛下は引き籠もりっぱなしだ。
その『化け物』とやらがどんな姿で、どんな力を持っているのか、ケインツェルは知らない。