亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…垂直の脆い壁を、一段ずつ、少しずつ、恐る恐る登ってくるレト。
地上までの距離はまだだいぶある様で、手を伸ばしても息子には届かなかった。
断続的に吹き付ける忌々しい突風が、懸命なレトの手を一瞬止どまらせる。
すぐ側で膝を突いて谷底を見下ろすサリッサは、目尻に涙を溜めてカタカタと震えていた。
抱えられたユノの身体が大きく揺れる度に、彼女の身体は呼応してビクリと跳ねる。
(………油断したな…)
…まさか…嵐が爆発するとは。しかもこんなにも大きく、至近距離にあったとは。
だが、何よりも一番驚いているのは……その存在に気付く事が出来なかった自分自身だ。目と鼻の先にある嵐の気配など、容易に察知出来るというのに…。
(……幸いにも…爆発は……今のところ風だけ…。……今ならまだ…)
先程から脳裏を掠める最悪の事態に陥っていない今……この今なら、まだ間に合う。
「………ユノは…ユノは大丈夫ですか…?………ああ……もう…嫌…」
溜め込んでいた涙がとうとう溢れ出し、サリッサはその場で蹲る。……意識が無い上、今にも谷底に落ちてしまいそうな息子の姿が、見るに堪えない。
この狩人の親子に任せてばかりで、ただ見守るしか出来ない自分が情けなくて、怒りさえも込み上げてきて……やりきれなかった。
…泣き崩れるサリッサを傍目に、ザイは谷を見下ろしたまま、気休めにしかならないかもしれないが彼女に囁く。
「………大丈夫だ。王子は何処も怪我は無い……しっかりなされよ…。………母親の貴女がその様でどうする……」
「………すみ…ません…。………で…でも……」
マントに顔を埋めて嗚咽を漏らすサリッサ。落ち着け、と再度口を開こうとした。