亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
頭上で鳴り響く風の唸り声を耳にしながら、ザイは出来る限り崖から身を乗り出し、目下のレトに近付こうと試みる。
からからに乾いた太い木の根に剣を深々と突き刺し、それを支えにして更に崖下へと身体を近付けた。
…二人の距離はだいぶ縮まったが、それでもあと数センチ…どうしても届かない。
父の、小刻みに震えた大きな手。
すぐ側にあるのに。見詰める先にあるのに。あと少しで届くのに。
どうしてこの距離は、縮まらないのだろう。
まるでその距離は………………僕と、父さんの間の…。
知らない内に出来ていた、二人の…。
「………もうナイフは無くなったのか…!」
「……あるけど、駄目…。………ここから上の壁、凄く脆いみたいだから………これ以上突き刺すと崩れちゃうよ…」
「……諦めるな…!……すぐに…すぐに引き上げてやるからな…」
………冷静沈着、異常な程寡黙な父が……今は別人に見えた。
進展しない事態に舌打ちしながら、どうにかして必死で自分を助けようとする父。
………こんなに感情を露にした父は、今まで見た事が無かった。
(………)
…うねる風の咆哮が鼓膜を叩き付ける中。
ぼんやりと……レトの耳に、囁き声の様な小さな声が……何処からか聞こえてきた。
時々聞こえてくる、その声。
鈴の音に似た声。
声の主は見えないけれど……それは確かに、ある。
ああ………雪の精だ…。
楽しそうに、笑っている。
………いや…。