亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「少々強引な手を使ってでも、陛下にはお外に出て来て頂きますよ。どうせまた性懲りも無く狸寝入りを決めこん………」
「あれは狸寝入りだったのですか?…陛下ともあろう方が…ケインツェル様もさぞや苦労をなさっているのですね…。……………………………ケインツェル様…?」
…おかしい。
彼から返事が、無い。
…と言うよりも、反応自体が無い。
この男との全ての会話は、大低必ずこの男で閉めくくられるのだが。
まさかのノーリアクションに驚愕する兵士は、何故か手元の箱を見下ろしたまま黙り込むケインツェルを恐る恐る窺う。
眼鏡の下の切れ長の目は、微動だにしない。
どうしたのだろうか、と不安げな兵士は思い切って彼に声をかけようと試みた。
姿勢を正し、コホン…と一度咳をする。
「―――…ケイ…」
「この一週間の間。…私以外に誰がこの地下を出入りしていましたか?」
「………は?」
…思わず素っ頓狂な声を返してしまった兵士は、彼からの質問の内容を理解するや否や慌てて再度口を開いた。
「…出入り、は………ご、御座いません。…ケインツェル様以外の者は誰一人入っておりませんが…」
「………誰も?」
「………はい…」
地下への扉は、毎日兵士達が交代で厳重に守っている。上からの許可が下りない限り、地下へは入れない事になっているのだ。
ここ数日で地下に出たり入ったりしているのはケインツェルのみである。
誰かが無断で入ろうものなら大騒ぎになっている筈だ。
相変わらず手元の箱を見下ろしたままケインツェルは蓋に手をかけ、小さく溜め息を吐くと…。
「あ、そう」
パタン、と勢いよく閉めてしまった。