亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
そして何事も無かったかの様に再び本漁りに取り掛かる上司に、兵士は拍子抜けした。
「……あの…如何致しました?」
「いえ何も。資料はこのくらいにしておきましょうか。さて君、その荷物を地上まで運んでくれないかね?」
予想通り。その荷物、と何とも軽い調子で言ってきた彼の指し示す指先には……これでもかと積まれた本の山。どれも貴重な古文書の類いであるため、落として傷でも入れば冗談では済まない。
…これも宿命か、と兵士は割り切った。
「……はっ…」
本の山を慎重に抱える兵士の前をゆっくりと歩きながら、ケインツェルは指先で摘んだ鍵をクルクルと回す。
鍵同士がぶつかり合い、金属独特の甲高い音色が地下に木霊する。
カチャカチャと、鳴り響く。
ぶら下げたランプの薄明かりは足元を照らし、揺れる鍵を映し。
怪しげな笑みを下に潜ませた彼の眼鏡に、反射した。
暗闇の中。
誰に向ける訳でも無く、ケインツェルは笑う。
にんまりと、深まる笑み。
カチャカチャと鳴る鍵の音色に加えて、ケインツェルは鼻歌を口ずさんだ。
(―――消えていた、消えていた…)
ああ、今の静けさは本当に………嵐の前だからなのか。
(消えていた…消えていた。一つ残らず…)
私のこの渇きをどうにかしてくれる嵐は…いつだろう。
早く早く早く。
(箱の中身は消えていた。全部全部消えていた。一つ残らず…)
消えて、いた。
「―――魔石、が…ねぇ…」
「……はい?何かおっしゃいましたか」