亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



もはや、火はどうしようも無い。鎮火するのをじっと待つしかないだろう。

真っ赤に燃える炎の中に、火元の大きな屋敷の輪郭が見え隠れする。………あの燃え方は尋常ではない。何処か違和感のある…。


















「………油か何か、撒いた様だな…」

「…放火ねぇ………人の事言えないけど…よそ者のやる事って物騒で派手ね」

「静かに出来ない連中なんだろうよ」









…燃える街を眺めながら、降りしきる雪の中で二人の男女は呟いた。
彼らが纏う、雪と同化して見える保護色の役割である真っ白なマントは、狩人である者の目印。

狩人の過酷な生き方によって鍛えられた、獣の如き視力を持つ狩人の鋭い眼光で、二人は街の景色をじっと見詰める。

男はフードを深く被り直し、再度口を開いた。



「……なぁ、マナ。放火したのは何処のどいつだと思う?」

…そんな軽い調子で、若い狩人…アオイは尋ねてきた。対するマナは、面倒臭そうに頬を掻いて首を傾げる。

「……だ、か、ら……よそ者。………お隣りの国のバリアン兵士でしょうよ。………汚い足でズカズカ入って来て、散々土地を荒らし回って………今度は放火?…目茶苦茶よね」

「何でも、あの放火された屋敷は………………上級貴族のマノン家…だとかいうお家らしいぜ。………コム爺さんの話じゃ、そのマノン家は王族を匿っていたらしい」

「…あー、なるほど。………バリアンから言わせれば、制裁ってやつ?………容赦無いわねー…」




…マノン家が王族を匿っていたという事が、ばれたのだろう。
あの火事はその結果…という訳である。



「生存者は無し…かしら?…どうなのダンテ?」

…そう言って、背後に佇む針葉樹の天辺を見上げれば…彼女の一人息子、ダンテが音も無く目の前に降り立った。
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