亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
マントに付着した汚れを払い落としながら、気怠そうに首を左右に振った。
「…ゼロ。屋敷内に微かだが、死体が見えた。………残骸、がな。まぁ、燃えちまったらもう何も分からないだろうけどよ」
どうやら、マノン家の人間は先に殺され、証拠隠滅のために屋敷に火を放たれた様だ。
王族を匿っていたばかりに、マノン家はとんでもないとばっちりを喰らってしまった。
哀れな人間達である。
「………ザイ達は…大丈夫かしら」
…何でもかんでも非道で無茶苦茶なバリアンの全勢力を、敵に回しているザイとレト。
彼等は静かに生きていくことを何よりも願っていたというのに、そんな彼等の今の状況はどうだろうか。真逆ではないか。
今回の王族の護衛の件は、狩人内ではあまり知られていない事だが、いずれ広まるだろう。
…元から有名人であるザイの名が、更に世間に出回ることになる。
…息子のレトも同様だ。そもそも、あの子は自分の父が何故有名なのか、何故長老から忌み嫌われているのか…何も知らない。
「ザイの今の居場所は分からないな。調べようにも…生憎、俺には禁断の地に入る勇気は無いんでね。………大丈夫だろ。あの堅物は、よそ者なんかに殺られる程弱くねぇって。レトだってそうさ………泣き虫のガキだが、一応あのザイの血を引いているんだぜ」
「あんたは楽観的で良いわねー。………まぁ、心配していても仕方ないけど。………それはそうと…アオイ」
それまでヘラヘラと笑っていたマナの顔付きが…途端、真剣な表情へと変わった。
燃え盛る炎を見詰める瞳は、鋭い刃を宿したままだ。
「………最近………………妙、じゃない?」
「………妙?」
二人は街を眺めたまま、会話を続ける。