亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
最初とは打って変わってギャーギャーと騒がしい室内。他人の家であるというのに失礼極まりない事だが、そんな彼らの様子を、イーオは微笑ましく眺めていた。
こんな明るい空気は久しぶりだ。
…懐かしい。
ユノは本当に、曾祖父と祖父にあたるデイファレト王50世、51世によく似ている。特にその幼い姿は、遊び仲間であった51世と瓜二つである。…ユノの父親もさぞや似ていたに違いない。
(……また…昔のように)
昔のように。
………幸せな、幸せだと思えるような光景が……見れるだろうか。
「……もう一度、春が見たいわ…」
…誰にも聞こえない様な小さな声で、イーオは呟いた。それは単なる独り言で終わらせるつもりだったのだが。
「―――…春って…どんなもの…?」
……どうやら、聞こえてしまったらしい。
首を傾げたレトが、一人騒音の輪から抜けて出てきた。空いている椅子にゆっくりと腰掛け、イーオの答えを待つ様子だった。
…そのレトの膝に、何処からか黒い雛鳥が飛び乗ってきた。温もりを求めるかの様に、そのままマントの内へと潜り込んでいく。
「……そうねぇ…何て言ったらいいのかしら。………………上手く表現出来ないけれど………そう………優しい、ものよ」
「………優しい…?」
レトはパチパチと瞬きを繰り返した。
優しい季節とは、一体どんなものなのだろうか。
この老婦人の様に、優しいのだろうか。
「…空気も、そよ風も、お日様も、全部…優しいのよ。だから、皆伸び伸びとして、のんびりと生きているの…」