亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その話の通り、フェンネルには、異国の民が多い。子孫に他国の血が混じっている人間は数多く、純粋なフェンネルの人間の方が少ないくらいだ。
フェンネルの民といえば、色白に金髪、茶髪…というスタイルだが、混血だと赤髪や黒髪、白髪という異なる特徴がある。
………といっても、そのことで差別も無ければ誰も何も気にしていないのが現状である。
「ねーねー、イーオさんおいでよ。いつでもいいから。車椅子押してあげるからー」
…まるで子供の様に…否、実際まだまだ子供だが、せがんでくるイブにイーオはクスクスと面白そうに笑った。
「…そうねぇ、折角だから行ってみようかしら。…こんなおばあちゃんになって旅行だなんて…考えたこと無かったわ」
春を見に。
自分と同じ境遇の少年に会いに。
長生きして良かった、とイーオは微笑む。
「…このデイファレトにも、春はあったんでしょ…?………どうやったら…昔みたいに春が来る様になるの………?」
…昔は確かに、存在していたのだ。
穏やかな、時代が。
…何気ないレトの問いに………それまで笑顔だったイーオの表情が、本の少しだけ、曇った。
憂いを含んだ曖昧な微笑が、ゆっくりと口を開く。
「………どうすれば…いいのかしら…ね。………………そもそも、どうして春が無くなったのか、知っているかしら…?」
………春が無くなった訳。
…この永遠の冬季と言われる天災は、創造神アレスによる天誅だ。各国共通だが、天誅はアレスの意向に背いた王政を行うと、下される。
それはこの世の定めである、『アレスの書』に書かれている通りだ。