亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
どうもピンとこない、納得いかない二人の渦巻く疑問。
その見えない霧に包まれた謎めいた奥の奥に……光を射したのは………次の、笑顔のイーオが呟いた一声だった。
「―――…老王は、ノアを恨んでいるの」
その場にいる全員の視線が、その柔らかな笑みに向けられた。
その発言はユノにとっても知られていないものだったのか、綺麗なつぶらな青い瞳が、驚きのあまり大きく見開かれた。
…既に話がついていけずぼんやりとしていたレトは、ひたすらパチパチと瞬きを繰り返す。
「…老王は、ノアが嫌いで、ノアが恐ろしくて仕方ないの。魔の者は、王という存在に刃を向けることが出来ない生き物。だから…ノアは……………戦火の中………………………老王を殺せない代わりに…“テナ”という…女性を………老王の魔の者を、殺したの。……………彼の目の前で」
生暖かい鮮血は、手の平を伝い、指先へと流れ。
綺麗な長い爪で一瞬躊躇いを見せた後、滴となって足元に落ちていった。
重力に従って無心で落ちていく赤い瞬きを、やけに冷めた目で見ている自分がいる。
魔力に塗れた血の臭いが充満している。そこらじゅうで燃え広がる炎の吐き出す煙の中で、それは匂い立つ。
視界の隅には、自分と同じくらい綺麗で長い緑の髪の女が横たわっていた。
細くて色白の首と腹部からはとめどなく血が流れ出ていて。
………私の指は、なんと切れ味の良いことか…と、彼女の皮膚を裂いた己の手を褒めちぎった。