亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
彼女は、ぴくりとも動かなかった。
最初から透き通るほど白い肌は、徐々に青色を帯びていき、なんとも血色の悪い不健康なものへと変貌を遂げていく。
我が手で殺めたその屍に、大丈夫ですか?、と声をかける自分。
にやける口元はそのままに、漏れ出る笑い声はそのままに。
………同じ仲間。同胞を殺してしまったことに、不思議と何の罪悪感も湧いてこなかった。
私は悲しい筈なのに。こんなことをしてしまった自分が悔やまれて仕方ない筈なのに。
何故でしょう。
愉快で、愉快で…堪らない。
何故でしょう。
ああ、それはきっと。
これが、私なりの。
貴方への、見せしめだから。
自分でも見る度に、綺麗だなぁ、と自分で思っている自分の笑顔を添えて………この屍の向こうに佇む、一人の男に視線を移した。
男はまだ年若くて、派手な赤い髪で、上品な衣服を纏っていて。
偉そうで。
傲慢そうで。
貪欲そうで。
第一印象は、最悪。
見るだけでもこちらが汚れてしまいそうな、そんな男が。
呆然と、佇んでいた。
その目は、唇は、手は、足は、震えていた。
その場で膝を突き、思わず笑ってしまいそうな情けない嗚咽を漏らしながら、彼女の屍に縋り付いた。
目の前で起こった彼女の死に号泣する男を見下ろす私は、いい気味だと心中で笑った。
もっと悲しめ。泣け。嘆け。悲しみのあまり堕ちてしまうくらい。
…痛いだろう?
胸が痛いだろう?
…だが、我が陛下の苦しみはこんなものではない。
堕ちてしまえ。
堕ちろ。
堕ちろ。
オチロ。
「―――貴方のせいだ」