亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………皆…悲しいね…」
小さな声で、レトはポツリと呟いた。
皆、悲しい。
その悪い老王様も。
ノアとかいう長寿の魔の者も。
昔のデイファレト王も。
ここにいるイーオも。
…危険でも、それでも王にならなければいけないユノも。
皆、悲しい。
皆、可哀相。
…可哀相。
…王政崩壊を機に、春は無くなった。
漂う空気も、一陣の風も、そこに春の気配は無い。
訪れた厳しい環境に、街の民は国を去ったり病に倒れたりと、次第に減少していった。
元から自然と共に生きてきた狩人は、この環境の変化に大きな影響を受けることなく、順応していった。
………それから、五十年あまりの歳月が流れた。
「……もう…春はこないの?」
「………方法は、一つだけね」
クスリ…と小さく笑うと、イーオは車椅子の肘掛けに頬杖を突き、暖炉に篭った火に視線を移した。
仄明るい暖炉の光と影がちらつく目元は、年相応のしわだらけの窪んだものだが。
…虚ろな光を宿すその瞳は、濁り一つ無く、透き通っていた。
「―――……創造神アレスの望みである……………………新しい王の、君臨ね」
…ピクリと、その言葉にユノは反応した。
ゆっくりと足元に視線を落とし、何かを思い詰める様に…ギュッと、唇を結んだ。