闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「デートでいいよね?」

 独り言を遮って強引に話を進めたエナにジストは「まあいいか」と頷き煙草を灰皿に押し付けた。

 「エナちゃんだしね、特価ってことにしておくよ」

 エナは背凭れに体重を預け、腕を組んだ。

 「なにが特価だ。こっちは金貨で払う方がマシなの。そこんとこ宜しく」

 破格中の破格なのだとエナは念を押した。

 「いいね、自分の価値を下げない女性っていうのも」
 「あんたにその価値が無いってだけ」

 自分を高く見積もるつもりなど彼女には無い。
 価値の無い男よりも自分の時間の価値が勝ると思うのは当然だ。
 自分がより大事なものを己の価値観でのみ選び取る。
 その基準が少々他の人よりも己寄りというだけの話だ。
 自分の為の時間は自身の命と同じほどに大事。それが彼女の持論でもあった。
 ジストは肩を竦めて見せたが、そこには不快そうな表情一つ浮かんでいない。
 彼もまた、価値観の絶対的な中心に己を置いているのかもしれない。

 「さ、契約成立。さっきの質問、答えて」

 エナは人差し指を挑発するように動かした。

 「どんな人物か、だったよね」

 ジストはにこにこしながら、肘をついて両手を組み合わせた。

 「そんなこと聞かなくても、見ればわかると思うけど」

 「それじゃ遅いから聞いてるの。ホントに知ってんの?」

 疑わしげなエナの視線にジストは笑顔を崩すことなくとんでもないことを口にした。

 「じゃあ、既に遅いんじゃない?」

 エナは瞠目した後、視線を頼りなく彷徨わせた。
 そして、自分の言ったことと会話の流れを反芻する。
 そこから導き出される答えといえば。

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