闇夜の略奪者 The Best BondS-1
第二章『爆ぜる金糸が災いを求める時』
【第二章】   

 ――この道を行けば、どこに辿り着く?――
 「さ、答えなよ」
 エナが笑顔で促すと、男はポケットから煙草を取り出し、使い込まれた茶色い革が巻かれたジッポライターで火を点けた。
 目と同色の深紅の髪が風に揺れる。
 タバコを一口吸い、ふう、と息を吐き出し、男は口を開く。
 「……さあてねぇ」
 男の視線がエナの指を追い、道の果てへと向けられる。
 「道なんざ何処にでも繋がってるんだ。キミ次第じゃねえの?」
 エナは目を見開き、次いで吹き出すように豪快に笑った。
 「何ソレ。答えになってないよー!」
 けれど、その答えは。
 彼女が一番望んでいた答えだった。



 「泥棒? キミみたいな可愛コちゃんがなんで泥棒なんて?」
 メインストリートに面した喫茶店の中。
 美しい青年は呆れ口調の問いを目の前で二杯目の紅茶を喉に流し込む少女に投げかけた。
 何処でどう【ライフ・ヘルパー】の噂を聞いてきたのかは知らないが、依頼と言っても年若い少女のことだ。「ストーカーを退治して欲しい」だの「誰それをぶん殴って欲しい」だの、そんなことだろうと踏んでいたのだが、彼女は自分が思っていた以上に闇の世界に精通しているらしかった。
 「そんなこと、どうだっていいでしょ」
 対する少女の答えは素っ気無い。とても依頼する側の態度とは思えない。
 「何の説明も無しでジストさんに犯罪の片棒担げ、って、そういうこと?」
 ほんの少し責めるような素振りを見せてみたが、少女の反応は変わらない。
 「そゆこと。ってゆか、闇屋自体が既に犯罪の域だと思うけど?」
 「それはエナちゃんの偏見だよ。ジストさん、そんな悪いことしてないもん」
 闇屋を名乗っている以上それは全くの嘘であったがエナが真実を知る術は無く、それ故に彼女はかぶりを振りながら溜め息を吐き出した。
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