闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「どうしても、大金が要るの。それに、今回は苦肉の策ってヤツだし、ゆっとくけどあたし、一般市民は一切狙わない良識人だからそこらの泥棒と一緒にしないでね」
 一般市民を狙わないからといって堂々と言うことでもないが、少女は胸を張ってそう言い切った。
 「まあ、貧乏から盗っても意味ないし寝覚め悪いってのが正直なトコなんだけど」
 ぼそりと本音を暴露したエナに苦笑する。開けっ広げで、それでいて嫌味が無い。
 「それでも泥棒ってことには変わりないよね。女の子なんだし、もっと他の稼ぎ方を探した方がいいんじゃない? なんならお店、紹介するけど?」
 この街には女性ならではの大金を稼ぐ方法はあまり無いが、もっと南の方へ行けば、女性特有の店が多くある。男性と酒を呑むだけの店もあれば、性行為に準じるような行為を売る店もある。昼間に齷齪(アクセク)働く男達の何倍もの額を稼ぐ女も珍しくない。
 「時間拘束されるわ、精神疲弊するわ、そのくせ、良くて金貨一枚くらいなもんでしょ。非効率じゃん。それなら死にかけの爺さんの玉の輿に乗るほうがよっぽどマシ」
 確かに泥棒と比べれば手にする額は劣るだろう。だが、その大きな成功報酬の代わりに犯罪者というレッテルを貼られ、そこには常に命の危険が付き纏うことを考えれば効率的とはとても言えない。
 「そこまでの大金が要るの? あ、ちなみに結婚はジストさんが先約だからね」
 エナは椅子に深く座り直して小さな溜め息を吐いた。
 「大金要るのは今回だけなんだけど、ね」
 ジストは「なんで?」というごく当たり前の疑問を彼女の言葉尻にかぶせた。
 「なんでそんなに金が要るの? 一体なんのために?」
 その言葉にエナの唇が、にっ、と弧を描いた。
 猫のように大きな目が、ジストを強く射抜く。
 「活きる、ために。」
 「――……いきるため?」
 その瞳の中に苛烈な意志を見た。
 譲れない願いだとか、どうしようもなく強い拘りだとか、そういう類の意志。真っ直ぐでひたむきな、何か。
 エナはにっこりと笑う。
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