闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「そ。活き抜く為に。あたしがあたしである為に必要なコト。大丈夫、捕まっても喧嘩両成敗になるようなところしか狙わないから」
 何が大丈夫なのかはわからないが、そんなものが相手なら喧嘩両成敗という以前に捕まった段階で殺されるだろう、と思ったがジストは其れを口にはしなかった。
 あることに強烈に引きずられた意識が、言葉を呑みこませたのだ。
 「……目が、笑っていないよ。エナちゃん」
 口元に笑みを佩いていながら、その瞳は凍てつくほどに激しい感情を宿していた。
 エナはゆっくりと瞳を閉じた。
 「そりゃそーよ。マジな話、なんだから」
 再度瞳を開いた時には、そこには完璧な笑顔が出来上がっていて。
 ――……ふーん。案外食えない女ってわけだ。
 ジストは横目でその笑顔を確かめ、ポケットの中を探った。
 「で? 良識あるエナちゃんは何処を狙おうっていうの?」
 煙草を取り出し、銜える。
 一度目は嫌な素振りを見せたエナも、その煙草に文句を言うことはなかった。
 「ああ、うん、影団、狙おかなって。今トルーアに居るっていうし」
 「へーぇ……」
 ライターの火を煙草に近づける。が、灯す直前で手の動きが止まった。
 「…………はっ?」
 眉根に皺を寄せて俯き加減だった顔を上げる。
 「どしたの? 影団、知んない? おっかしいな、有名だと思うんだけど」
 小首を傾げて立てた人差し指を頬にあてる姿は愛らしいものだったが、ジストは額に手を当てて深い溜め息を吐いた。
 「エナちゃん、それ本気で言ってるの?」
 己の力を過信しているのか、世間知らずなのか。
 彼女が狙おうとしている影団というのは海賊の中でも突出した残忍さを誇る集団だ。団員のほとんどが寄せ集めではあるが、頭目の【漆黒の死神】には海軍も相当手を焼いていると聞く。
 「海賊ランクBに登録されている海賊だよ? アタマの賞金は金二百枚。女の子にどうにか出来る相手じゃないよ、やめときなって」
 煙草に火をつけて、ジストは手をひらひらと振った。
 「B? Cじゃなかった? それに、確か金、百二十枚だ、って……」
 古い情報を持ち出す少女にジストは苦笑する。
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