闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 操縦室に続く扉の背面あたりでエナは体を引き上げた。
 転がる男たちを踏まぬように甲板に立ったエナは、ゆっくりと背中から武器を引き抜いた。
 六角形の筒が三つ、鎖によって繋がれているエナの得物――三節棍。
 この鎖がエナに、より高い集中力を求めさせる。
 音を出さないように手に持ったエナは、操縦室の壁に凭れて眠る男を跨ぎ、男二人の様子を見ようと壁に背を預ける、と。
 「!」
 眠りが浅かったのか、跨いだ男が足に顔を摺り寄せてきた。
 ――しまった!
 心が叫んだのは自身のもう片方の足が動いた瞬間だった。
 摺り寄せられた足を軸に、体が反転する。
 反射的に動いた体は止められず、勢いを持った膝がそのまま男の顔面にめり込んだ。
 壁が男の後頭部で鈍いながらも派手な音を立てる。
 男を更に深い眠りへと叩き落したエナは鼻に皺を寄せて目を瞑った。
 うわぁ、やっちゃった、と悔いたところでもう遅い。
 「……なんだ? 今の音」
 「中からの音……じゃねえよな」
 言いながら男たちの立ち上げる気配と剣を取り出す音。
 「誰か頭でも打ったんじゃねぇの?」
 軽い笑いを交えた声に、ある意味正解、とエナは渋い顔で頷く。
 「まあ、オレらの船を狙うバカが居るとは思えないしな」
 朧(オボロ)げな影がこちらに向かって伸びているのは幸いか。
 エナは改めて壁に張り付き、胸に手を置いて深呼吸をした。
 壁をぐるりと回って背後を狙うべきかとも考えたが、膝蹴りを入れた男が鼻血を出して倒れている以上それは出来ない。壁を伝っている間にそれが見つかって声でも上げられたら堪らない。
 こんなところで失敗するわけにはいかない、と三節棍を持つ手に力を込めた。
 影が太くなるにつれ、足音が鮮明になる。エナはその床に目を落としていた。
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