闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 そしてつま先が見えた瞬間。
 踏み出す、その一歩。
 力強く飛び出て、華奢な腕で三節棍を操る。
 見開いた男の目の中に映る少女は堂々と――堂々と、謝った。
 「ごめん。」
 声を上げる間も与えずに振るわれた三節棍は一人目の男の首を掠るように打つ。
 傾ぎ床に倒れこむ体の先にもう一人の男。
 「な……! 女!?」
 男の声にエナは口許にふてぶてしい笑みを浮かべた。
 「なに、差別?」
 通常の三節棍よりも筒の部分が長いエナの得物の間合いは案外広い。
 勢いが衰えないままの三節棍を上から左肩めがけて斜めに振り下ろす。
 骨が軋む感触が伝わる。が、男は肩を押さえることも膝をつくこともなかった。流石はBランクの海賊といったところか。男は剣を構えようとした。
 だが、それは敵わなかった。
 更に踏み込んだエナが手に持っていた部分を男の喉に押し付けたからである。
 その反動で首に巻きついた三節棍を交差させた左手で掴み、引き寄せ、背後に回る。
 「……おやすみ」
 そのまま首を絞めると、男の全身から力が抜けた。
 ずるりと崩れ落ちた男から三節棍を回収し、エナは顔にかかる髪をぱさりと後ろに払いのけた。
 「やっぱ、予定通りとはいかない、か」
 足元に転がった三人の男を見下ろし、エナは浅い溜め息を吐く。
 内二人は意識を飛ばしただけなので、もたもたしていたら直ぐに再起する。
 こうしてはいられない、とエナはそそくさと扉に向かった。
 扉を開ければ煌々とした灯りの下、其処には上へ続く階段と降りる階段がある。上はまず間違いなく操縦室に続いているので、迷いなくエナは下りの階段の手すりに半腰を掛け、その上を滑るように降りていく。
 地下一階――をエナは無視した。どうせ居住区だとか食堂だとか、そんなところだろう。更に下っていくと船内は打って変わって暗くなる。上の階は等間隔でカンテラがぶら下がっていたのに対し、この階はぽつりぽつりとしかない。
 通路は三本。階段を降りてきて真っ直ぐの通路と左右の其れをエナは目を細めて観察する。
 扉の数は少なく、左の通路に二つ、真ん中の通路の左側に二つ。右の通路にも二つ。灯りがあるのはいずれも部屋の向かい側の壁のようだ。見張りが居るような気配も無い。
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