闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「ふぅん……猫、ね……」
 彼女は一瞬目を細めたが、髪の毛をくるくると指で弄りながら淡々とした声音で呟いた。
 「貴方がそんなに興味を示すなんて、驚きだわ。見た目以外は何処にでも居そうな子だったのに」
 ジストは撫でていた手を止め、聞き返す。
 「何処にでも居そうだと、そう思ったのか?」
 「当然だわ。男を手玉に取れるようなタイプには見えなかったし、女としての努力をしているようにも見えなかったもの」
 女であることを武器に生きてきたリラらしい言葉だった。
 「どうしてもその子が気にかかるなら帰って頂戴。気も漫(ソゾ)ろの男に抱かせる程、私の身体は安くないのよ」
 何度体を重ねてきても何の関係の形も求めず、それでいて変わらないこの矜持をジストは案外気に入っていた。
 何処までも女でありながら、変わることなく自身を持ち続ける人間は彼にとっては貴重な存在だったのだ。
 「……そうだったな」
 笑みながらそう言うとジストは煙草を灰皿に押し付けて、リラの唇に自身のそれを重ねた。
 「お前のそういうところが、堪らなく好きだよ」
 睦言のように囁くと、リラの長い睫毛が小さく震えた。
 「……誤魔化さないで。全く、都合の好い人なんだから」
 恨めしそうにねめつけながらも、リラの声には呆れが滲む。
 それを確認したジストは「じゃあ、行くとするよ」と声を掛けてベッドから身を離して脱ぎ散らかしていた服を拾い上げた。
 「……私は、貴方のそういうところが大嫌いよ」
 ベルトを締めていると背中を静かな声が叩いた。無言で振り返ると、ベッド脇に腰掛けたリラの美しい背中のライン。
 「貴方は自分を見失うことなんて無いんでしょうね」
 怒っているわけではないようだが、責めているのか悲しんでいるのか、微妙な棘が見え隠れしている。普段はこのような物言いをするような女ではないだけにジストは内心首を傾げた。
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