闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「泥棒は、もう終わったんでしょ? 今度は何?」
 「護衛!」
 無事にこの場を切り抜けたいということだろうか。盗賊風情の小者を相手に大立ち回りを演じろと、そういうことなのだろうか。
 「報酬は?」
 「なに、デート一回で話ついてたんじゃないの!?」
 迫り来る男たちにエナが焦るように声を張り上げた。
 「あれは、あの時の情報料。エナちゃん、踏み倒す気だったでしょ?」
 「あれで報酬取る気!?」
  驚愕顕わに目を広げるエナにジストはにっこりと笑った。
 「ジストさん、高給取りなの」
 「なにが……!」
 不平を並べようとしたエナの口が噤(ツグ)まれる。
 五人の男が立ちはだかったからだ。
 「や、やっと……追い詰めたぞ……!」
 内の一人が息も絶え絶えにそう言った。
 「追いついた、の間違いだと思うけどね」
 これだから程度の低い奴等は、と辛辣な言葉で挑発するとエナが前で明らかに面倒臭そうな顔をした。
 「煽るんなら、責任取ってよ」
 「だから報酬は? って」
 堂々巡りになると思われた会話に入る横槍。
 「無視してんじゃねえぞ、おい!」
 「五月蝿い! 取引中!」
 ぴしゃりと制するエナに男たちが息を呑む。それを見てジストは唇に弧を描いた。
 ――思った通りだ。
 エナを相手にするにはこの男たちでは役不足。そうでなくして、何故五人の男を前に怯えることなく立っていられるだろう。
 考えてみれば、此処まで追いつかれることなく走ってきたのだ。その距離の差から見るに、荷物を持ったエナの方が更に速かったのだろうということも推測出来る。
 闇屋に依頼してくる以上、そうでなければ面白くない。
 同時に、確かめたくなった。否、試したくなった。
 ジストは煙草に火を点けてにやりと笑う。
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