闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「……じゃあ、こいつらを一人で蹴散らしたら、デート一回で請けるっていうのはどう? お姫様」
 このとき彼女は思いっきり顔を顰めた。見ている側が「何もそこまで」と言いたくなるような見事な顰めっぷりだ。
 そして、ぽつりと「……裸足」と呟いた。
 蹴散らすこと云々よりも裸足で暴れることに抵抗があるらしい。
 「トルーアって、ガラスとか平気で落ちてんのに」
 ぶつぶつとぼやきながらエナはジストに荷物を押し付けた。
 「持ってて」
  左手でそれを受け取り、頑張ってね、という意味を込めて手をひらひらと振ってみせるとエナはそれには答えずに手首足首をぐりぐりと回した。そして、追いかけてきたものの割り込み所がわからずに立っていた男たちに向かって手を伸ばし、親指を下に向けた。明らかな挑発。
 「やってやる」
 わかりやすい宣戦布告に男たちは口元を引き攣らせた。
 小娘にコケにされたのだから無理もない。
 「ナ、メやがって……!」
 じり、と男の足が地面を擦る。斧を持った手がぴくりと動いた刹那――エナはもうその場には居なかった。
 代わりに、一人の男の首に華奢な足が減り込む。油断していた首への攻撃に男は吹っ飛び、肩から地面に倒れこんだ。
 ――速いな。
 それに女の割には力もある。
 男一人を軽々と薙ぎ倒したエナはそのまま二人目の男のこれまた首目掛けて掌を突き出した。鋭く繰り出されたそれに、二人目の男はまるでゴム人形のように崩れ落ちた。
 着地の直後に隙があったものの、状況判断も狙いのつけ方も申し分無い。
 飽く迄、一般的な人間と比べて、の話だが。
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