闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 三人目にちらりと視線を移したエナは後ろへ大きく跳躍した。
 その男から振り下ろされた剣は当然の如く地面の乾いた砂を抉る。
 砂塵が舞う。
 次いで繰り出される攻撃を、体を反ることで躱し、そのまま流れるような身のこなしでバランスを整え、体を捻り腹部に一発蹴りを入れる。
 その瞬間、隣から別の男が。
 エナは近くに居た男の体を利用し、その男を蹴ることで地面の軸足を浮かし、くるりと一回転して地面に降り立ち、そのまま今度は腕を軸にし、地面すれすれの蹴りを繰り出して男の足を掬った。そして倒れた所に真上からの正拳突き。
 色の異なる瞳がより一層輝いて見える。
 檸檬(レモン)のような淡い黄色の髪が舞う。
 耳元の一粒石のピアスがちらりとのぞく。
 「へぇ」
 ジストは思わず感嘆の声をあげた。
 毛色の変わった猫だと思っていた。だがそれは間違いだった。
 戦うその姿は獰猛にしてしなやかな豹そのもの。
 この少女より強い人間は掃いて捨てる程居るだろう。だが、戦いの中において此処まで輝きを増す者は珍しい。
 身を包む闘志が目に見える気さえする。目映く燃える、金色(コンジキ)の焔。
 残るは、腰を落としているエナを縊(クビ)り殺すべく鞭を振るった男ただ一人。
 エナは鞭の存在に気付いた。が、避けるには少し遅い。
 「ぅぬ!?」
 意味を成さない声をあげたエナは飛び退き様に背に収まっていた武器を取り出し、それに鞭を巻きつかせることで難を逃れる。
 その動きによって、エナの胸元からネックレスが零れ落ちる。
 「……――――!!」
 ジストは七色に輝くその水晶に目を奪われた。
 ――あれは……!
 ジストは自身の首に掛かるネックレスを掴んだ。エナの水晶と似たような形をした其れを。
 凝視していた先でエナの表情が変わる。
 ふと視線を動かし、男を見る。
 鞭でエナとの距離を固定した男はもう片方の手で懐から銃を取り出すところだった。
 この近距離からならばどれだけ銃の扱いが下手でも当たるだろう。
 発砲される前に男を倒すか、それとも三節棍を手放して一先ず躱すか。さてどうする、とジストはエナの決断を見守る。
 だが、エナの取った行動はどちらでもなかった。
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