闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「ゼル、生きてんのね?」
 ゼルが生きていることが大前提で此処まで来たのだ。
 既に死んだとあらばこのまま踵を返してしまおう、とエナは思っていた。
 「まぁ、時間の問題でしょーよ。あんたらを誘き寄せりゃ、用無しだもんでね」
 そう言った声の主は何やら懐から円筒を出し、その先に付いた導火線に火を点けた。
 放り投げられた其れからは桃色の煙が立ち上る。
 「狼煙、ね」
 ぎり、と歯を噛み締めて呟く。
 おそらく船に居るだろう頭領への連絡だろう。ということは、ゼルの命のカウントダウンが始まったということだ。
 「ジスト」
 名を呼び横目で見るとジストは両手を軽くあげ、やれやれ、と頭(カブリ)を振った。
 「ご褒美は?」
 それは言葉にしなかったエナの『お願い』への了承。頼もうとしていることは決して楽なことではないというのに。
 「行き着くトコが地獄でも、一緒に行こう」
 勿論この世の地獄に行く気などさらさら無いが、もしそうなったとしても切り捨てない覚悟を、エナは誓う。
 「わお、愛の告白?」
 こんな場面であってもおどけるジストにエナは頼もしさを感じて笑う。
 「馬ぁ鹿。……じゃ、行くよ!」
 エナが跳躍する。と同時にジストの銃が火を噴く。
 その銃弾を避けた桃茶色の髪の青年の横をエナは全速力で駆け抜けた。
 そして振り返り、一言。
 「殺すなよー!」
 背後に全幅の信頼を残し、あとはもうただ船を目指して走るだけ。
 そんなエナの背中を見送ったジストは苦笑する。
 「まぁったく、面倒なことを簡単に頼むんだからなぁ」
 荷物を地面に置いて、煙草に火を点けた。そして、雑魚の中ではまだ割と骨のありそうな男を見る。
 「さて、仕事仕事」
 戦慄が、戦いの序章を奏でる。
 「楽にイけると思わないでね?」
 茶化す口調はそのままに。
 にっこりと笑んだジストに恐れを抱かぬ者は居なかったという。
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