闇夜の略奪者 The Best BondS-1
「好いことを教えてやろう」
いったいな、この野郎……と背中をさすりながら片膝をおこし、もう肩膝を地面につけて睨み上げるエナに愉悦交じりの声が降る。
「私の鎌には蜘蛛の毒が塗られているのだよ」
ゼルは目を見開いて、エナを見る。
彼女は手を首の後ろに当てて顔を顰めていた。その掌についた少量の血を認め、ゼルは息を呑む。
「……言うの、遅くない? モテないでしょ」
武器を握るその手に力が篭る。
「女はサプライズというものが好きだと聞くが?」
悠然と言う死神には勝利を確信した者の余裕があった。
悔しさを滲ませたエナが鼻を鳴らす。
「女心、わかってないな。好みのモノしか、要らないの!」
「エナ!」
飛び掛らんとしていた彼女の名を強く呼ぶ。
初めてエナの名を口にした彼に彼女は踏み止まり、そして強く睨みつけた。
「なに!?」
邪魔するなとその瞳が告げていた。けれどゼルも引くわけにはいかない。
「この鎖、なんとかしろ! 後はオレが引き受けっから!」
「そんな隙、こいつが許すと思う!?」
「でもこのままじゃオマエ……! 死ンじまうんだぞ!?」
いくら背中に傷を負っているとしても、それでもこの少女よりは自身の方がこの場を脱する術を持っている。そう信じ怒鳴るゼルに少女も「わかってるってば!」と言い返す。
「あたしだって、なんとかしたい気持ち、あるよ。その為に来たんだから!」
でも隙が無いんだから仕方ないじゃん、と喚くエナの声と共に、ぱんぱん、と乾いた音が耳を打つ。
「美しい友情だな。滑稽極まりない」
わざとらしく拍手をしながら死神は何かを思い出したかのように、ふっと鼻で笑った。
「……そういえば……義手の剣士殿はどうやら知らないらしい」
二対の瞳が死神を捉える。
「貴様の出身地……トロルのことを」
「トロル!?」
エナが驚愕の形相で振り返る。
「……トロルが、どうした……」
ゼルは探る様に低い声で問い返した。何とも言えない不安が広がる。
「何だ、一体。どうしてオマエがその名を知ってやがる……!」
トロルはこのエンダル大陸の西側にある、地図にも載っていない小さな村だ。
いったいな、この野郎……と背中をさすりながら片膝をおこし、もう肩膝を地面につけて睨み上げるエナに愉悦交じりの声が降る。
「私の鎌には蜘蛛の毒が塗られているのだよ」
ゼルは目を見開いて、エナを見る。
彼女は手を首の後ろに当てて顔を顰めていた。その掌についた少量の血を認め、ゼルは息を呑む。
「……言うの、遅くない? モテないでしょ」
武器を握るその手に力が篭る。
「女はサプライズというものが好きだと聞くが?」
悠然と言う死神には勝利を確信した者の余裕があった。
悔しさを滲ませたエナが鼻を鳴らす。
「女心、わかってないな。好みのモノしか、要らないの!」
「エナ!」
飛び掛らんとしていた彼女の名を強く呼ぶ。
初めてエナの名を口にした彼に彼女は踏み止まり、そして強く睨みつけた。
「なに!?」
邪魔するなとその瞳が告げていた。けれどゼルも引くわけにはいかない。
「この鎖、なんとかしろ! 後はオレが引き受けっから!」
「そんな隙、こいつが許すと思う!?」
「でもこのままじゃオマエ……! 死ンじまうんだぞ!?」
いくら背中に傷を負っているとしても、それでもこの少女よりは自身の方がこの場を脱する術を持っている。そう信じ怒鳴るゼルに少女も「わかってるってば!」と言い返す。
「あたしだって、なんとかしたい気持ち、あるよ。その為に来たんだから!」
でも隙が無いんだから仕方ないじゃん、と喚くエナの声と共に、ぱんぱん、と乾いた音が耳を打つ。
「美しい友情だな。滑稽極まりない」
わざとらしく拍手をしながら死神は何かを思い出したかのように、ふっと鼻で笑った。
「……そういえば……義手の剣士殿はどうやら知らないらしい」
二対の瞳が死神を捉える。
「貴様の出身地……トロルのことを」
「トロル!?」
エナが驚愕の形相で振り返る。
「……トロルが、どうした……」
ゼルは探る様に低い声で問い返した。何とも言えない不安が広がる。
「何だ、一体。どうしてオマエがその名を知ってやがる……!」
トロルはこのエンダル大陸の西側にある、地図にも載っていない小さな村だ。