闇夜の略奪者 The Best BondS-1
「エナ……鎖を。剣をオレに……!」
名を呼ばれ、エナはその時初めて自身が眉を顰(ヒソ)めていたことに気が付いた。
ゼルを見て、死神を見る。
死神はエナの決断を待っていた。そのことに小さな疑問を覚える。
――何故、止めを刺そうとしない?
殺す隙ならいくらでもあったはずだ。それとも、毒で苦しむ姿を見たいのだろうか。
そこでエナは、ふとある可能性に辿り着く。
――見せたいんだ。
故郷だけでなく目の前で人が死ぬ様を、ゼルに見せたいのだ。
そしてその上で、ゼルに剣を――エディを持たせたいと思っている。
「ゼル、ごめん。無理」
理解したからこそ、エナは強く言い切る。
「剣、渡せない」
「なんでだよ!」
内臓が震えそうな大きな声を振り切り、エナは立ち上がって三節棍を構えた。
「これが終わったら……エディはくれてやっから……。だから、頼む、オレにそいつを……! トロルの敵を……!!」
怒りと憎しみに震える声。だがエナは首を横に振る。
「無理。」
エナはちらりとゼルを見て、そして不敵に笑った。
「こいつ、あたしの獲物。金二百枚の賞金首。怪我人が出しゃばんないで」
「オマエだって毒くらってんだろォが! 死にてェのか!」
エナは左手で服の上から水晶を握り締めた。
時間が余り無いのは確かだ。皮膚が痺れに似た痛みを訴える。だがそれが何だというのだろう。まだ動ける。ならば、目の前の男を打ち倒しさっさと解毒剤を手にすれば良いだけの話。
「平気だよ、ゼル」
エナは膝に力を込めた。勢いよく踏み出す素足。
「死ぬ気が、しないっ!」
「やめろ! ソイツはオレが殺す!」
武器が交差する。その瞬間に繰り出したエナの蹴りは、今一歩のところで死神には届かない。身長差は、ざっとみて三十センチ。得物の長さでも若干不利だが肉弾戦はもっと不利。
名を呼ばれ、エナはその時初めて自身が眉を顰(ヒソ)めていたことに気が付いた。
ゼルを見て、死神を見る。
死神はエナの決断を待っていた。そのことに小さな疑問を覚える。
――何故、止めを刺そうとしない?
殺す隙ならいくらでもあったはずだ。それとも、毒で苦しむ姿を見たいのだろうか。
そこでエナは、ふとある可能性に辿り着く。
――見せたいんだ。
故郷だけでなく目の前で人が死ぬ様を、ゼルに見せたいのだ。
そしてその上で、ゼルに剣を――エディを持たせたいと思っている。
「ゼル、ごめん。無理」
理解したからこそ、エナは強く言い切る。
「剣、渡せない」
「なんでだよ!」
内臓が震えそうな大きな声を振り切り、エナは立ち上がって三節棍を構えた。
「これが終わったら……エディはくれてやっから……。だから、頼む、オレにそいつを……! トロルの敵を……!!」
怒りと憎しみに震える声。だがエナは首を横に振る。
「無理。」
エナはちらりとゼルを見て、そして不敵に笑った。
「こいつ、あたしの獲物。金二百枚の賞金首。怪我人が出しゃばんないで」
「オマエだって毒くらってんだろォが! 死にてェのか!」
エナは左手で服の上から水晶を握り締めた。
時間が余り無いのは確かだ。皮膚が痺れに似た痛みを訴える。だがそれが何だというのだろう。まだ動ける。ならば、目の前の男を打ち倒しさっさと解毒剤を手にすれば良いだけの話。
「平気だよ、ゼル」
エナは膝に力を込めた。勢いよく踏み出す素足。
「死ぬ気が、しないっ!」
「やめろ! ソイツはオレが殺す!」
武器が交差する。その瞬間に繰り出したエナの蹴りは、今一歩のところで死神には届かない。身長差は、ざっとみて三十センチ。得物の長さでも若干不利だが肉弾戦はもっと不利。