闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「頼む! オレの手で、アイツらの復讐を……っ!」
 懇願に似た叫び。それを斬るようにエナは三節棍を振るう。
 「くだらない!」
 魂を身体ごと刈り取ろうとする大鎌の柄を蹴り上げる。
 「テメェに何がわかる!」
 お互いに後ろに跳び間合いを計る。
 「わかるかっ!」
 エナは蛇のように唸る三節棍を繰り出す。
 得物の長さでは劣るが、直線的な動きしか出来ない鎌とは違い曲線的に動くという利点がある。
 「とにかく、無理!」
 もう一度跳ぶ。
 「絶対、嫌っ!」
 「勝手な理屈こいてんじゃねェよ!」
 襲い掛かる大鎌。
 攻撃を止めようと手首を反して三節棍を操る。
 「うわっ!」
 手から三節棍が離れていく。
 大鎌に武器が巻きついた拍子に手が汗で滑ってしまった。その汗は、毒による脂汗。
 「……勝負あったか……」
 エナの武器はそのまま死神の手へ。
 「まあ、庇いながらでは力の半分も出せまいな……」
 ちっ、と舌打ちをする。ゼルに何かを仕掛けたときにすぐ反応出来るようにしていたことを見抜かれている。
 「……まだまだっ!」
 エナは背中に手を伸ばした。
 手にしたのは、鞘に収まったままの妖刀エディ。それを束の間見つめる。
 この剣を抜くか否か。エナは下唇を噛み締めた。
 「エナ……っ! 頼むから……!」
 オレに戦わせてくれというゼルの声に、エナは覚悟を決めた。この声だけには応えない。
 「もうよい。飽きた。死んでもらおう」
 死神は鎌を振りかざした。
 ゼルがエナの名を叫んだ。
 鞘から刀身を抜こうとした刹那。
 「!」
 空を、空間をも切り裂く鋭い銃声が響き、近くの林から鳥たちが飛び立った。
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