闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「オレ、約束したんだ。ロウに。必ず、世界一の剣士になるって」
 そう言ってゼルは目を閉じた。エナはゼルの前にしゃがみ込み、その目が開く時を待った。
 其処に映る感情の色を見極める為に。
 ゼルが目を開ける。
 「約束……守ンねェとな」
 憎しみが完全に消えたわけではなかろう。けれど瞳の中には憎しみは浮かんでいなかった。在るのは純粋な悲しみと未来を見据える確かな光。
 エナは頷いた。
 「あんたはエディの剣士、でしょ」
 「……ああ」
 何処まで行こうとも全ての果てにあるものは現実でしかない。そして必要なのは現在(イマ)を生き続ける意志。泣き喚き濁流に抗いながらも未来を紡ぐ為に流れていく過去を過去として受け止める。そうしなければ自身も流れに呑み込まれて行く先を見失う。
 「エナ。鎖……斬ってくれっか?」
 落ち着きを取り戻したゼルの声にエナはようやく是と答える。
 使い手がリスクを伴う代わりに与えられるのが鉄をも斬る恐ろしい破壊力。
 振り下ろすと蒼い光が一閃。
 鉄の鎖が音をたてて容易く散らばる。
 「おい!?」
 その直後のことぐらりと視界が揺れて片膝をついたエナにゼルが声をあげた。
 「……あれ?」
 エナの眼前には心配そうに肩に手を置くゼルの顔。
 エナは一瞬自分でも何が起きたのかわからなかった。
 「オマエ、この血……!」
 ゼルはエナの首筋の包帯と自らの手を染める赤い液体に驚いているようだった。
 「や、それ結構前にゼルが自分で…」
 首の血はともかく、手についた血はゼル自身の爪がつけたものなのだが、余り話を聞いていないのか彼は「毒が、回ってンだな」と呟いた。まあ、それはそうなんだけど、とエナも独り言のように答えを返し、目を瞠った。
 その血を見つめていたゼルの表情がはっきりと変化したからだ。
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