雨音色
「先生、いらっしゃったのですね」


「おぅ。お嬢さんとはもう別れたのかね」


試しに研究室を覗いてみると、牧が何かを読んでいた。


「えぇ。今日は4時から絵のお稽古があるようで・・・。

先生、何を読んでいらっしゃるのですか?」


彼が近づいてみると、それは藤木の論文であった。


「明日、同じ刑法学者の友人に会うんでね、君の論文を読んでもらおうと思っているんだ」


「本当ですか」


「あぁ。今回のは中々興味深い」


そう言うと、牧はその論文を机の上に置き、藤木の方に向き直した。


「それはそうと、お嬢さんとはどうなんだ」


しかし、彼は答えを聞く前に、既に分かっていた。


みるみる内に赤くなるその頬が、彼の気持ちを全て物語る。
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