幸せという病気
二人ともびっくりした顔で、武はタオルを手に急ぎ足で近づき、遥の隣に座った。


「おまえ大丈夫だったか?携帯繋がんねぇし・・・」


武はそう言いながら、遥にタオルを渡す。


「お兄ちゃんこそ。香樹とおばぁちゃんは?」

「ばぁちゃんも家も無事だ。香樹は・・・」


香樹の事、すみれの事。

武は地震後の一連の事情を説明した。


「そう・・・でもよかったぁみんな無事で・・・」


遥はお茶で両手を温めながらホっとする。


「で、おまえなんでこんなとこ居んの?」


一間置き、武が不思議そうに尋ねた。


「それが・・・」


遥もまた、事情を説明した。

犬の事、そして竜司の事を・・・。


「・・・そうか、いい奴だな」


どことなく安心した顔つきで武は答える。


「うん、いい人だね・・・」


遥の安らいだ顔と声に、武は黙って微笑んだ。


「どうする?そいつの治療終わるまで、おまえここにいるか?」

「お兄ちゃん、すみれ先生は?」


そして遥がなんとなくそう聞くと、武はうつむいて答える。


「俺は・・・ほら・・・フラれたし・・・」

「告ったの!?」


武の言葉に、びっくりして遥は大声で聞き返す。


「声でかいって!・・・いや、なんも答えてくんなかったし・・・そんなもんフラれたんだろ」

「え~・・・彼氏いるっていってたしね・・・告白しちゃまずいでしょ・・・」

「でしょうねぇ・・・」


二人は下を向いて少し沈黙になった。


「・・・香樹連れて帰ろっかっ」

「そう・・・だな・・・」


遥の慰めるようなわざと明るい声とは逆に、武は全く元気が無かった・・・。



そのまま三人は家へと帰る。
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