奥に眠る物語
オーナーは彼の言葉の意味が分からないらしく、何も言わない。

ちなみに私も分からないので口は一切挟まないが。

「それはそうと皐月。今日この後、暇かい？」

「へ、あ　はい　まぁ・・・」

いきなり話を振られたので適当に頷いてしまった。

まぁ、バイトのあとは家に帰るだけなので実際暇なのだが。

「ならいい。　この間のお礼がしたくてね、あいつらもうるさいから」

「・・あいつらって・・まさか！！」

思い当たる節に、彼は笑って肯定する。

「そうだよ　さて、僕はそろそろ失礼するよ」

「ちょっと待て。　お前名前なんだ」

いきなりオーナーが彼の行く手を阻むように質問する。

彼は大げさに肩をすくめながら口を開く。

「・・憑雲、と名乗っているけど」

「へぇ、偽名ときたか。　まぁいい　俺は川上だ　また来るときは俺もいるときにしろよ」

「・・・考えておこう」

そういって、彼は店を後にした。

私はオーナーの態度に少し驚いた。

「川上さん・・　女の人以外の名前訊くなんて・・　新しい道でも開いたんですか？」

「はっ！？　バカ、俺はそっち系の趣味はねぇよ　ただ、アイツは雰囲気が妙でな」

そういいながらタバコを取り出して吸い始める。

「妙ってどういうことですか？」

「お前には分からんだろうよ」

そういって、私に疑問を残してオーナーはカウンターへ戻っていった。

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