胡蝶蘭



誓耶は重い足を引きずって、家に帰った。



「ただいま。」



暗い玄関先で、ぽつりと言う。



リビングから聞こえるテレビの音で、自分の声もあまり聞こえなかった。



ため息をついて、2階へ上がる。



階段が軋んだ。



びくりと身体が反応する。



跳ねる心臓を撫で、誓耶はそうっと階段を上がった。



どうか、匡が気づきませんように。



聖なるキリストの誕生日に、穢されることがありませんように。



一歩踏み出すごとに信じてもいない神に祈りながら、誓耶は部屋まで辿り着く。



幸い、匡の部屋のドアが開くことはなかった。



なるべく音を立てないようにして部屋の中へはいる。



電気はつけない。



せっかく気づかれないように来れたのに、今ここで電気をつけたら…。



考えたくない。



誓耶は暗い中服を脱ぎ、部屋着に着替えた。



寒い…。



でも、布団の中に入ったらそうでもなくなるか。



誓耶は凍える身体を励ましながら、布団にもぐりこんだ。



< 77 / 366 >

この作品をシェア

pagetop