胡蝶蘭
誓耶は重い足を引きずって、家に帰った。
「ただいま。」
暗い玄関先で、ぽつりと言う。
リビングから聞こえるテレビの音で、自分の声もあまり聞こえなかった。
ため息をついて、2階へ上がる。
階段が軋んだ。
びくりと身体が反応する。
跳ねる心臓を撫で、誓耶はそうっと階段を上がった。
どうか、匡が気づきませんように。
聖なるキリストの誕生日に、穢されることがありませんように。
一歩踏み出すごとに信じてもいない神に祈りながら、誓耶は部屋まで辿り着く。
幸い、匡の部屋のドアが開くことはなかった。
なるべく音を立てないようにして部屋の中へはいる。
電気はつけない。
せっかく気づかれないように来れたのに、今ここで電気をつけたら…。
考えたくない。
誓耶は暗い中服を脱ぎ、部屋着に着替えた。
寒い…。
でも、布団の中に入ったらそうでもなくなるか。
誓耶は凍える身体を励ましながら、布団にもぐりこんだ。