初恋の向こう側
「梓真は、最近になってオークに会った?」
少し前を歩くヒロが言った。
「いや。 あいつ県外の全寮制の高校に入って、そこでイジメにあったらしいんだ。
それで半年で辞めて帰ってきて、それから引きこもりになってるって聞いたけど…」
「ふーん」
歩道脇の石段からピョンっと飛び降りたヒロが、振り返る。
「梓真は、あれで良かったと思う」
「え?」
「あたしって、後先のこと考えずにすぐにカッとなっちゃうでしょ?
でも梓真は、相手の挑発に乗らないで冷静でいてくれるから」
そう言って笑ったヒロの顔が、夕焼けに照らされている。
「あたしみたいなのと一緒にいる梓真が、そういう性格で良かったなぁって」
「……」
─────
家の前まで来た時、買い物袋を持つ俺の方へヒロが手を伸ばした。
「重いぞ?」
「大丈夫。今日はありがとね。
……ねぇ、梓真?」
「ん?」
「あの日観た映画、面白かったね?」
「うん」
「また映画、行きたいね?」
「そうだな」