初恋の向こう側

「梓真は、最近になってオークに会った?」


少し前を歩くヒロが言った。


「いや。 あいつ県外の全寮制の高校に入って、そこでイジメにあったらしいんだ。
それで半年で辞めて帰ってきて、それから引きこもりになってるって聞いたけど…」

「ふーん」


歩道脇の石段からピョンっと飛び降りたヒロが、振り返る。


「梓真は、あれで良かったと思う」

「え?」

「あたしって、後先のこと考えずにすぐにカッとなっちゃうでしょ?
でも梓真は、相手の挑発に乗らないで冷静でいてくれるから」


そう言って笑ったヒロの顔が、夕焼けに照らされている。


「あたしみたいなのと一緒にいる梓真が、そういう性格で良かったなぁって」

「……」



─────


家の前まで来た時、買い物袋を持つ俺の方へヒロが手を伸ばした。


「重いぞ?」

「大丈夫。今日はありがとね。
……ねぇ、梓真?」

「ん?」

「あの日観た映画、面白かったね?」

「うん」

「また映画、行きたいね?」

「そうだな」



< 129 / 380 >

この作品をシェア

pagetop