初恋の向こう側
「ちゃんと鍵かけろって前にも言ったじゃん?」
キャベツを刻むヒロの斜め後ろに立って言った。
「え?
……あっ、そっか。つい忘れちゃうんだよね」
「若い女が一人っきりで家にいるってのに、無旋鍵だなんて危なすぎるって」
「ママに一人で留守番させてた時からの習慣なの。
誰か来たってインターフォンにも出れないくせに、閉じこめられてるみたいだから鍵は開けておいてって」
「そっか……でもさ、やっぱりちゃんと鍵はかけた方がいいよ」
「そだね」
珍しく素直に答えたヒロ。
時々こうやって、らしくもなくすんなり頷かれると、ちょっとばかり拍子抜けしちゃって。
そんでもってこんな時には、普段とは違う妙な気分になるんだ。
肩越しに眺める白い腕や細い手首に指先 ──
何故だか自然と目線が動いて、目に映るヒロのいろんな部分を今更ながら当然のことなのに……やっぱり女なんだって。
俺とは違うんだって、そんなバカみたいなことを思うんだ。
そして、その流れで自然と目が行ってしまうのは、なだらかな丘のような ──
「どうしたの梓真?」
「ん !?
……い、いやっ 何でもないよ」
ヒロの胸のラインをなぞりかけてた目線を慌てて逸らした。