another story
広い家で、迷いそうになりながら、何とか階段を降り、広いリビングにたどり着いた。

そこには美人で優しそうないかにも“奥様”という雰囲気のご婦人と、彩り豊かなフルーツサラダが待っていた。


「おはよう、さゆりちゃん。
遅かったけど、時間大丈夫?」

とそのご婦人が聞いてきた。

「あっ…はい…
大丈夫…です…。」


私の慌て具合にか、ご婦人は口に手を当て、上品に笑った。

「髪、ぐしゃぐしゃだわ。
後で直してあげるから、朝ごはん食べてね。」


その優しい笑顔に、このご婦人が“大谷さゆり”のお母さんであることを実感した。


人付き合いが苦手で、とかく一人になりがちな私に、いつも優しく声をかけてくれる、私の唯一の友達だった。
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