魔王に捧げる物語
こんなに走ったのは初めてかもしれない。
ハァハァと荒くなった息を整えながら思う。
自分がどこにいるのか、もうわからないがあれ以上あの場所にいられなかった。
周りを見ると知らない廊下で、少し薄暗い。
よたよたと壁に背を預けると、心地よい冷たさに少しだけ落ち着いた。
イリスは綺麗で、きっと頭もいい。
大きな国の本物のお姫様で、仕草も優雅だった。
不快さを堂々と出せるほど自信もある。
自分には何もない……。
あれほど堂々と相手を想う気持ちもそう……。
あの人と自分では比較にもならない。
そう考えると、苦しくて悲しくて胸が痛かった。
こんな気持ちになったのは初めてで、ズルズルとその場に座り込み、
溢れ出す涙を隠そうと膝に顔をつけて、しばらくじっとし続けた。