魔王に捧げる物語




着いた先は食事の用意された広い部屋で、いつもとは雰囲気が違った。


そして視線を向けた先には衝撃的な光景が広がる。




イリスの腰に腕を回したニルと、彼女の伸ばす腕が彼の背に回って抱き合っていたのだ。


そして互いの唇が触れそうな瞬間がゆっくりと視界に入り、


何かが音を立てて崩れた気がした。




彼を信じていた………否、疑ってさえいなかった。


何が起きていたのか、疎いミラでもさすがに解る。



裏切られた、と。



走り出したミラを呼び止める声が遠くから聞こえる。


でも、止まれない。




やっと涙が止まったと思っていたのに、意思に関係なく溢れていく………。


嗚咽に呼吸が上手くいかない。




勢いのまま裸足も関係なく、外に飛び出した。

始まったばかりの夜は厚い雲がかかり、冷たい雨がポツポツと涙のように落ちてくる。



今は………濡れても良かった。





冷たい雨がこの気持ちを少しでも洗い流してくれるなら。



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