魔王に捧げる物語
「ミラ!!」
今一番聞きたくない声が聞こえた。
振り返らなくてもわかるそれは、珍しく焦りの気配がする。
走っている間、何度も頭の中に流れた映像がまた鮮明に浮かび、ギュッと目を閉じた。
「ミラ、誤解だよ。早く中に戻って、風邪ひくから」
何が誤解だというの?
今更言い訳なんて聞きたくない。
ミラはニルを無視して歩く、
すると……道を塞ぐように目の前に彼が現れ、図らずも見ることになった。
「ミラ、話を」
落ち着いた声と気遣う腕が伸びたが、それを思い切り払いのけた。
「触らないでっ!!!」
考えるより先に出た言葉は、本心そのまま。
うつむくと同時に映る足元は自分だけ水浸しで、彼は乾いたままだった。
こんな時まで違うのだと、心の何処かで思う。
「あの人に触れた手で触らないで!」
「ミラ!」
「き、らい!………呼ばないで、あの人とっ……よろしくしてれば、いいじゃないっ」
上手く話すことも出来ないほどに嗚咽が漏れてもどうでもいい。