魔王に捧げる物語
ニルは何十年ぶりに雪と氷に閉ざされた北の果てにいた。
生物とは違うため、いくら気温が低くても寒さを感じる事もない。
赤い空から落ちる雪が深々と積もる中、歩いて進んだ。
飛ぶことが出来ても、そうした気分ではない。
何もない雪原は常より穏やかで、嵐の前の静寂とでも言うべきか………。
そうだったとしてもこれは序章に過ぎず、荒れ狂う風に焼き尽くす炎、崩落する大地。
やがて始まる魔力の結晶化、死の世界に比べれば救いようがある。
膨大な知識は、自身に冷静さを余すことなく与えた。
人でなくて良かった。
力があったから。
それでも、人に憧れた事が何度あっただろうか………。
同じ領域にいたなら、彼女と同じ世界を見つめられた。
いつか白い魔王が言った事が浮かぶ。
“この世界の全てが愛しい、彼女を生んだ世界だから……”
わかる気がした。
結局は同じなんだと……。
絶大な力があろうがなかろうが、そこに確かな心があることは違いないから。