魔王に捧げる物語







ニルは何十年ぶりに雪と氷に閉ざされた北の果てにいた。


生物とは違うため、いくら気温が低くても寒さを感じる事もない。


赤い空から落ちる雪が深々と積もる中、歩いて進んだ。

飛ぶことが出来ても、そうした気分ではない。


何もない雪原は常より穏やかで、嵐の前の静寂とでも言うべきか………。



そうだったとしてもこれは序章に過ぎず、荒れ狂う風に焼き尽くす炎、崩落する大地。

やがて始まる魔力の結晶化、死の世界に比べれば救いようがある。



膨大な知識は、自身に冷静さを余すことなく与えた。


人でなくて良かった。


力があったから。





それでも、人に憧れた事が何度あっただろうか………。


同じ領域にいたなら、彼女と同じ世界を見つめられた。


いつか白い魔王が言った事が浮かぶ。





“この世界の全てが愛しい、彼女を生んだ世界だから……”





わかる気がした。



結局は同じなんだと……。

絶大な力があろうがなかろうが、そこに確かな心があることは違いないから。






< 197 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop