魔王に捧げる物語
どれほど心が渇いても、世界が闇になっても、あの笑顔があったから今も世界を愛せる。
いつか……魔王の存在も消える時がきて、新たな世界が出来たら……
この呪いのような時間を感じる者もいなくなるだろう。
行き着く先が虚無であっても、輝きを失わない命を守ることが役割でもある。
あの男の気持ちが少しわかった気がした。
人でありながら、災禍を止める為に果てに向かった自身の正体。
彼の守りたかった世界は、今も生きている。
思考や行動が違っても、彼の影響を多少は受けているのかもしれない。
雪に埋もれた神殿には、氷の翼を持った女が立っていた。
よく知った顔、遥か昔に柱とした王族の一人。
「イリージュ……」
異形になりかけた女は、かつての自身の本性だった男の名を声もなく呟いた。
まだ………いくらかの正気が残っていたとわかる。
「………雷皇、よくぞいらして下さいました……」
「正しい応えだ、あの男はもういないのだから」
「ええ、存じております。ですが………悲しいほどに懐かしく思うのです。
私は、よき柱となれなかったのですね」