魔王に捧げる物語
「…………人間でありながらよく耐えた。まだ手放していないだろう?」
「もうすぐ抑えきれなくなります………。緑を奪う雪を止められません」
彼女は苦しそうに傷を押さえた。
人なら瀕死の傷であっても彼女は血塗れで立っている。
真っ白な雪が足元だけ朱に染まっていた。
「もうお休み、望むならあの男の姿で看取ってあげよう」
「…………残酷な人」
イリージュは潤んだ瞳でニルを見つめ、小さく嗚咽を漏らす。
ニルは自分の正体の姿を意識し、昔と同じ姿で彼女のそばに行った。
整った顔立ちの痩せた男だ。
出来る限り近づけて、せめて安らかにと………笑みを浮かべた。
「後は全て引き受ける、安心して眠ってくれ。
今までありがとう、イリージュ」
「…………っ!」
「眠るまで抱き締めている」
細い身体は氷と同じくらい冷たく、知識の中の彼女ではなかった。
死んだ男を想い、ずっと寂しさを我慢し続けてくれた優しく脆い女性。