魔王に捧げる物語
中枢部はこの世とは思えない景色だった。
ニルにとっては感動のない光景だが、人なら息も止まるものかもしれない……。
青い空を歩き、結晶のような雪の中一歩ずつ進む。
眷族さえ存在せず、生き物一ついない。
静かだ、と感じた。
魔王を拒絶することなく、歓迎することもない空間。
音さえもなく、風もない。
そんな景色の中にぽつんと立つ青年は絵のようだった。
「…………アレは?」
ニルの問いかけに青年が振り返る。
疲れた顔だが、少しだけ笑んだ。
「もうじき………落ち着きます」
「そう、少しだけ手を貸してあげよう。
お前が潰れてしまわないように」
ニルの髪がふわりと靡き、傷ついた翼がバサリと広がる。
抜けた羽が光を放ちながら空間に溶けた。
ピンと張り詰めた緊張が少し解け、イオは楽になった。
それと同時に、今なら魔王がどれほどの存在かも理解出来る。
他の追随を許さない圧倒的な力と、威圧感………たった一人で世界を変えうる力。
凄絶な美と、膨大な知識。何事にも動じない精神。