Sin(私と彼の罪)


「……ん…」


志乃のうめき声で現実に引き戻される。
柄にもなく、過去のことを思い出していた。

このところ、どうもおかしい。

今までのような俺ではなくなってきている。



原因はわかっているのだが。


「…どうした、起きたか?」



そう聞いてみるが、彼女は焦点の合わない目で宙を見つめたままだった。



「志乃…」


心配になった俺はそう口にしてみるが、彼女の反応はない。


するとその大きな瞳から、ぼろぼろとビー玉のような涙が溢れだす。




「……ぜ、ん」

「大丈夫、ここは俺の部屋だ」

「…善……わた、し」


かすれた声が、静かな部屋で紡がれる。
俺はそれに耳を傾けた。


「…わた、…っ!!!!」


突然その瞳が見開く。


驚愕を浮かべながら。

みるみるうちに、彼女の表情は暗く、悲痛になる。




ぼたり。



雫が、こぼれおちた。






志乃はおもむろに自分の手首を眺めると、あろうことかそれを擦りだした。

ごしごし、としきりに涙を落としながら。



「…っ…!!…」

「なっ…やめろ!!」




慌てて引き剥がすが、包帯は既に血で滲んでいた。

傷はまだふさがっていないのだから当たり前だ。




「……ぁ、ど…しよ…」


今度は俺に掴まれた腕に額を押しつける。
身体はガタガタと震えている。


「大丈夫だから、落ち着け」

「善…わたしの、せいだ」

「違う」

「……っ…」



やっと向かい合って見た彼女の表情は、病的で。
色素の薄いその姿が、消えてしまいそうで。




「……違く、ない…」

「違う」



一層、彼女の眉間には皺が刻まれる。
苦痛の中に、怒りが混在している。


強い瞳に、俺の中で戸惑いが生まれた。



「…ちがっ…!…

「…なにがだよ?」



荒い呼吸が顔に降り掛かる。
何か言おうとしては、止めて。
また何か言おうとして口を開く。




「言えよ、なにが違うんだよ…?」


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