『伝言歌』


立ち止まって、曲に耳を傾けてくれる人なんてほとんどいなかった。

皆それぞれの生活を送っているわけで、そこにあたしの曲が入り込む場所なんてなかったのかもしれない。



だけど、それでもよかった。


今はこんなでも、いつか何千人という人の前でステージに立つ。

そう夢見て――。


とにかく今は一人でも多くの人に曲を聴いてもらえるよう頑張るだけだ。





実際、何度もやめようかと思うこともあった……。


それでもあたしの居場所はここだと、ここしかないんだと、

そう思うと、この場所に戻ってきてしまうのだ。


それほどまでに歌が、音楽が大好きなのだから。



あたしには歌しかなかった。

小さな頃から歌ってばかりだったあたしには歌しかなかったのだ。





そして何曲か歌い上げ、ギターをケースに戻すと駅前の広場を後にする。





.
< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop