月の恋人



「………んー…」


くすぐったかったのか
身をよじるようにして甘えた声を出した陽菜に、ハッと我に返った。



――…シャレになんねーよ…



気付いたら、俺はキャミソールの肩紐を指に絡めて、今にもその下にある柔らかい実に手を伸ばそうとしていた。




――…何やってんだ、俺。



陽菜の唇は
俺が何度も触れたせいで
ほのかな紅みを帯びて
濡れて、光っていた。


官能的な、紅。


いつまで経っても幼い姉が

こんな色気を出せるなんて、知らなかった。



――…俺のせいか?


――…あいつの、せいか?



ぞくり、と
腹の底が騒めき、狂暴な何かが生まれてくる。


大切にして
優しく抱きしめたいのに

一方で

傷付けて
めちゃくちゃにしてやりたくなる。



相反するふたつの感情を持て余して



断ち切るように

マシュマロを
撒き散らした。




葬礼の
白い花に埋もれた
白雪姫のようだと、思った。




毒の林檎は、罪の象徴。

一口かじったら、もう戻れない。







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