月の恋人



流して、しまいたかった、のに。



―――――……





『…………ん……ゃっ……』



微かに流れるオーケストラの音色の合間に響く…濡れた、陽菜の声。

艶やかなバイオリンと
甘い喘ぎが合まって
ひどく悩ましい。




――…夢の続きを、見ているのだろうか。





『…ぁ……しょうくん、や…めて…』




――――――…違う。


全身の血が、沸騰した。

翔(アイツ)の名前を聞いて
心臓が爆発するかと思った。



――…夢なんかじゃない…


いま。
俺の部屋で。
俺の目の前で。



『…陽菜ちゃんの…唇、甘くて……美味しい…もっと、ちょーだい?』



陽菜を翔が――……









―――…ふ ざ け ん な ッ!!!





確信犯。

わざと、思いっきりヘッドフォンのコードを引き抜いた。



怒りをぶつける正当な権利を持たない俺の

せめてもの、反撃だった。







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