月の恋人



「すげーーな。…やっぱ、カッコイイぜ、ちくしょう。」


アキが漏らしたその呟きには、後悔と憧憬が入り混じっていた。

ほんの半年前まで、アキもユニフォームを着てマウンドに立ってた。良いピッチャーだったんだ。

けど…中学に入って、野球部の先輩達から嫌がらせを受けて―…辞めてしまった。

本当は、野球がやりたいんだろう。

握り締めた右手は、無意識にボールを握っているから。






「本当は、野球部、戻りたいんじゃないのか?」


簡単なことじゃないのは、分かってる。

でも。

そんな顔をするくらいなら、
先輩たちに頭下げて戻ればいいんだ。




アキはしばらくテレビの方に顔を向けたまま黙っていた。

画面では、勝ったチームの校歌が演奏されている。みな、泥だらけだが表情は晴れやかだ。こういう場面での校歌ってどうしてこんなに立派に聴こえるんだろうか。





「―…自分のことって、自分が一番よく見えてないのかもな。」

「は?」


アキが静かに言った。



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