手と涙 〜婚約者はピアノ講師〜
ヨーロッパのパティオを思わせるような

みずみずしい芝生の眩しい中庭に出ると

柔らかな心地よい風が頬をなで

少しだけ救われた気がした。



今が見ごろを迎えた

色とりどりの秋バラが甘美な香りを

ふわりと漂わせ

なんだか贅沢な気分だった。



誰もいない中庭の一角に

ベンチを見つけ

腰を下ろす。


背もたれに上体を預けると

ゆっくりと空を仰いだ。



今日は雲一つない秋晴れ。



宇宙まで突き抜けそうな、青だった。





(キレイだ・・・。

この青も・・・朱里さんも・・・)






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