クマさん、クマさん。


俺は菜摘の表情を見て固まった。



あんな表情、見たことがなかったからだ。



菜摘はいつも笑っていた。



声を出して笑っていた時もあったし、



大笑いしていた時もあったし、


微笑んでいた時もあった。






でも、そんな笑顔今見える菜摘に比べれば安い偽物の笑顔だった。





今見える菜摘の笑顔は心から純粋に笑っていると分かるぐらい、幸せそうに笑っていた。




「・・・菜摘」


雑音で消えるぐらいの声で菜摘を呼んだ。



でも菜摘はそんな俺の声なんて気づかずに、


1年付き合っても手を繋ぐ事を許してくれなかった俺の前で





彼氏と手を繋いで歩いて行った。






信号が青になった途端俺は、スピードをマックスにして運転した。


俺は逃げたんだ。



幸せそうな菜摘とあの男を・・・2人を見たくないから、

俺は無我夢中で運転して逃げたんだ。




・・・・・―――――――――



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