水島くん、好きな人はいますか。
「……瞬なんて、」
「聞こえねえな」
ぴゅっ、と。込めた力の分だけ、ストローからオレンジジュースが飛び出していった。それはもちろん瞬の顔目掛けた行為で、わたしの新しい反撃方法だった。
「くっ……」
「だめだよ笑ったら……っ」
ハカセとみくるちゃんが笑いを噛み殺しながら顔を背け、瞬はオレンジュースのかかった顔を怒りに塗り替える。
「てっっめえ万代!!! なにしやがんだゴラァ!!」
「ははははっ! 落ち着けや瞬っ!」
わたしはりっちゃんの背後に回り込み、今にも噴火しそうな瞬のことは水島くんが取り押さえてくれた。
「万代、惜しい。水も滴るいい男とは、すこーし違うわ」
盾にされても動じないりっちゃん、最強。
「隠れてんじゃねえぞ万代! こっち来い! てめえにもお見舞いしてや……っ」
横からびゅっと瞬の顔に飛んでいった、半透明の抹茶色。
「水鉄砲ならぬ紙パック砲って斬新だよね。流行るかぜひ検証したいよ」
みんなが目を見張った中で飄々と言ってのけたハカセが犯人だということは、一目瞭然。
「……ほう?」と標的を変えた瞬の顔が不気味な色になっているのは、オレンジジュースと緑茶のせいだと思いたい。
「てめえら顔貸せ! いや、頭からぶっかけてやる!」
いつのまにか瞬とハカセと水島くんの戦いになってしまった。
中庭に響く、言い争いと笑い声。その中にいるわたしたちはなにも気に留めてなくて、校舎の中で誰が見ているかも考えていなかったんだ。